原発性脳腫瘍
発生頻度は1万人に年間1-2人で、約半数は良性腫瘍


 脳腫瘍は、頭蓋内に発生する腫瘍ですが、”原発性脳腫瘍”と”転移性脳腫瘍”に大きく分けられます。前者は頭蓋内から発生する腫瘍と後者は他の臓器から飛んでくるものを指します。原発性脳腫瘍は頭蓋内に出来た腫瘍のなかで、転移性脳腫瘍以外のものと考えると分かりやすいかもしれません。
 
原発性脳腫瘍
 原発性脳腫瘍は、脳実質の腫瘍や脳を覆っている膜の腫瘍、頭蓋内の末梢神経の腫瘍などを指します。最も多いのは髄膜種、その次にグリオーマ(神経膠腫)、そして脳下垂体腺腫です。この3つで原発性脳腫瘍の70%を占めていて、その他に神経鞘腫や頭蓋咽頭腫、リンパ腫などがあります。
 
髄膜腫
 髄膜腫は原発性脳腫瘍の27%を占めていて、これはほとんどが良性腫瘍です。基本的には、手術で摘出して完治が可能です。しかしながら、数%で悪性傾向を示す 髄膜腫があることや、深部にできた 髄膜腫はどうしても部分摘出になることがあります。このような場合には、放射線治療が適応となります。放射線治療では、腫瘍制御率は高く全体で90%以上になります。
 最近では小さな 髄膜腫が偶然見つかる事が多くなっています。たとえば、頭部を打撲や頭痛の精査でCTやMRI撮影をおこなった際に、無症候性の 髄膜腫が観察されます。このような場合には、経過を観察していくことがとても大切です。定期的にMRI撮影を行い、大きくなるようなら手術や放射線治療を検討します。基本的に 髄膜腫は緩徐な発育をしめす良性腫瘍ですので、経過をみながら治療計画を立てていきます。なかには、何年もの経過の中で全く大きさに変化がないこともあります。
 
グリオーマ
 2番目に多い原発性脳腫瘍で25%を占めます。脳実質から発生するグリオーマは顕微鏡で組織を観察して、その組織像から良性ないし悪性のグレードを判断しています。このグレードはⅠからⅣまでに分けられますが、グレードⅠとⅡはlow grade gliomaと呼び、グレードⅢとⅣはhigh grade gliomaあるいは悪性神経膠腫と呼びます。治療の方針としては、手術治療、放射線治療、化学療法の3つがあり、これらを組み合わせて治療を行います。手術の目的は、診断を確定すること、そして出来るだけ腫瘍を摘出することです。グリオーマは 髄膜腫と異なり、脳実質に染み込むように存在していて腫瘍と脳実質の境界ははっきりとしていません。このため、全ての腫瘍を取りのぞく事は実質的には困難です。放射線治療と化学療法はlow grade gliomaではケースバイケースで行われていますが、一方、high grade glioma(悪性神経膠腫)では、放射線治療と化学療法は標準的な治療として行われます。
 
脳下垂体腺腫
 脳下垂体は、人間の成長や生命維持に必要なホルモン分泌を司ります。この脳下垂体に出来る腫瘍で最も多いのは脳下垂体腺腫で、ほとんどは良性腫瘍です。その他に脳下垂体に出来る腫瘍は頭蓋咽頭腫や 髄膜腫などがあります。
 脳下垂体腺腫で一番多いのはホルモンを産生しない腺腫で、非機能性下垂体腺腫といいます。脳下垂体腺腫のなかで、約40%を占めています。腫瘍からはホルモンが分泌されないため、後述するホルモン産生腫瘍と比べると大きくなってから見つかる事が多いです。症状は視力・視野障害が多く最初に眼科を受診されることもあります。脳下垂体は視神経の近くにあるため、腫瘍が大きくなると視神経が圧迫され視力が低下したり、両方の視野の外側半分(耳側半分)が見えにくくなります。また、周囲の海綿静脈洞などの硬膜を刺激することで頭痛で発症することもあります。最近は検診などで小さな非機能性下垂体腺腫がみつかる事がありますが、この場合は経過観察を行う事もあります。
 ホルモンを産生する腺腫は、過剰に分泌されたホルモンの症状で発症することが多いです。プロラクチン産生腺腫では、乳汁分泌刺激ホルモンであるプロラクチンが過剰に分泌されるので、子供を出産していないのに乳汁分泌がみられたり、月経不順や無月経になります。ただ、プロラクチンは吐き気止めや胃薬の副作用や、甲状腺疾患で甲状腺ホルモンが低下している場合にも、高い値になり月経不順などをきたすことがあるので区別が必要です。お薬の服薬歴、既往歴、MRI検査が有用な所見となります。プロラクチン産生腺腫の治療は、腺腫が視力障害をきたすほど大きくなければお薬の内服治療が第一選択です。このお薬は腺腫を根治するわけではありませんが、腫瘍を小さくしてプロラクチンの値を下げる事ができます。そして妊娠や出産も可能です。しかし、大きな腫瘍の場合はお薬の効果も限定されるため、手術による摘出が必要になります。
 成長ホルモン産生腺腫はプロラクチン産生腺腫に次いで多くみられます。成長ホルモンは子供の体を成長させるために必要なホルモンですが、脳下垂体腺腫により過剰に分泌されると巨人症や先端肥大症といわれる症状がみられます。成長期を境にしてその前で発症するかその後で発症するかで違いが出るのですが、体が病的に大きくなる点は同じです。過剰な成長ホルモンは体が大きくなるだけではなくて、高血圧、糖尿病、脳卒中などを発症させるため、しっかりと成長ホルモンを正常化させることが必要です。基本的には手術で腫瘍を取り除きますが、残った腫瘍には内服や注射で成長ホルモンの分泌を抑えます。補助的に定位的放射線治療が行われる事もあります。
 副腎皮質刺激ホルモン産生腺腫は、クッシング病とよばれステロイドホルモンの過剰分泌がみられます。特徴的身体所見は、体幹が太くなる中心性肥満、色素沈着、ニキビ、下腹部の皮膚に紫の線がみられます。副腎皮質刺激ホルモン産生腺腫も放置すると高血圧や糖尿病などを発症するので治療が必要になります。手術で腫瘍を取り除きますが、残った腫瘍には定位的放射線治療が選択されることもあります。いまのところ、この脳下垂体腺腫に有効なお薬はありません。
 下垂体腺腫の手術は、経蝶形骨手術と開頭手術があります。前者は主として鼻から脳下垂体腺腫の底面にアプローチして摘出を行います。後者は頭を開けての手術ですが、脳下垂体腺腫の前面や側面からのアプローチです。腫瘍の大きさや形を勘案して選択されます。いずれも全身麻酔で行われます。