認知症
脳神経外科から認知症へのアプローチ
認知症は、WHOをはじめとして様々に定義がなされております。その中心をなすのは、記憶障害と認知機能障害であり、これらの症状が社会的に問題を起こしている状態です。お仕事ができなくなったり、家庭や地域での生活が難しくなる事がこれにあたります。
認知症というとアルツハイマー型認知症がもっとも有名ですが、認知症をきたす疾患は様々です。アルツハイマー型認知症やレヴィ小体型認知症をはじめとする中枢神経変性疾患、脳梗塞や脳出血などの血管性認知症、脳腫瘍、頭部外傷、感染症、内分泌疾患、臓器の不全など多岐にわたります。認知症の診療では、これらの原因をしっかりと診断して適切な治療を行う事が肝要です。
私たち脳神経外科のクリニックでは、脳神経外科の立場から認知症へのアプローチを行っています。
脳神経外科でよく診る認知症
脳神経外科の3大疾患は、脳卒中、脳腫瘍、頭部外傷ですが、これらの疾患の患者さんが認知症の症状を示す事は稀ではありません。
脳卒中では、多発性脳梗塞が原因となっている場合があります。知らず知らずのうちに脳梗塞ができて、それが増えていき認知症を発症していきます。いわゆる”かくれ脳梗塞”のパターンです。これは早い段階であれば、認知症の治療とともに脳梗塞を行っていく事で対応することが可能です。そして、脳梗塞はないものの、大脳白質に虚血性の小血管病変が観察されることがあります。これは脳の虚血と関連が深いのですが、やはり脳梗塞と同じように認知症への関与が指摘されています。また、脳梗塞より数は少ないのですが知らず知らずのうちに脳出血が多発していることがあり、これも認知症への関与があります。脳出血がみつかった場合には、認知症の治療と脳出血の予防をしっかりしていきます。このような脳血管障害による認知症を診断するには、CTやMRIが有用です。とくに、微小な脳出血の診断にはMRIが有用です。
脳腫瘍も認知症で発症することがあります。麻痺や失語などの局所巣症状が参考となりますが、CTやMRIでの画像診断が最も確実な診断方法です。腫瘍が原因である場合は、まず原因となっている腫瘍の治療が必要です。腫瘍の種類と発生部位によっては完治も可能です。
頭部外傷では、最も多い認知症は慢性硬膜下血腫です。慢性硬膜下血腫は頭部打撲をして1ヶ月後位から症状を呈してきます。患者さんやそのご家族からのお話で最も多いのは、「1ヶ月前に転倒して頭を打撲した。その時はコブが少しできた位だった。ただ、最近は認知症の症状が出てきて日に日に進んでいる」というものです。慢性硬膜下血腫は脳神経外科ではよく診る疾患の一つで、CT撮影ですぐに診断が可能です。その他に、頭部外傷後遺症としての認知症があります。これは入院を要するような強い頭部外傷後にみられるもので、脳挫傷やびまん性脳損傷(びまん性軸索損傷)が基礎にあります。
脳卒中、脳腫瘍、頭部外傷以外では、水頭症があります。これはくも膜下出血の治療後や腫瘍の放射線治療後に2次的に発症する場合と、特に原因なく発症する特発性の水頭症があります。頭痛や嘔吐など激しい症状をともなう場合もありますが、ゆるやかに発症して、認知症、歩行障害、尿失禁の症状で発症する場合もあります。水頭症の原因は、脳の脈絡叢で産生される脳脊髄液の吸収障害です。このため、余分な脳脊髄液を脳内から減らすことが必要となり、チューブを介してお腹の中へ脳脊髄液を排出するシャント手術が行われます。
このように、認知症の原因は多岐にわたります。アルツハイマー型認知症やレヴィ小体型認知症などの中枢神経変性疾患は進行性病変で根治は難しいですが進行を送らせる事が出来ます。そして、血管性認知症は予防することが出来ます。認知症診療では、疾患ごとに治療方針が異なりますが、何も出来ないという事はありません。よりよい生活のために、少しずつでも治療をしていきましょう。